活字よりもコミックスを
コミックをバカにすることなかれと長い間親の方には言ってきました。
それは私自身が長谷川慶太郎先生の本を長く読んできた影響かもしれません。
以下に平成元年、今からもう20数年前に出版された「教育とビジネス」という本から長谷川慶太郎先生がお書きになっている部分を一部抜粋してお届けします。
時代は流れているんだということを知るためにも、
親が生きてきた時代とは様相が変わってきているんだということを知るためにも、
この一昔前の長谷川先生のご指摘を読んでいただきたいと思います。
「教育とビジネス」 初版平成元年2月20日 発行:関塾出版部
第1章「個性化時代と教育」 長谷川慶太郎
41ページ
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古い経験と昔からの常識が残るのは役人の世界である、と私は考えております。学校というものも、実は役人の世界に属するのであって、ここだけが最後まで残るでしょう。しかし学校の中でも予備校などは、講義のやり方、同時に学生の集まり方で、給与制度を決めるところが出て未ました。予備校の人気講師なんていうのは、もの凄い給料をもらっていますよ。
私も予備校の教師になろうかと思っているくらいです。社会科でも教えたら、たくさん学生が集まるでしょうね。食いつめたら、そうしようと思っておりますが、事実、そういう方がたくさんいらっしやる。これは言わば実力主義なのです。
「個性を尊重する」ということは、実力主義の時代が来るということです。
その意味から言えば、これからの大きなポイントは、どうやったら個性を伸ばす教育ができるか、どういう点に注意をするならば、子供の能力を伸ばすことが出来るか、これが親御さんの大きな課題でしょう。
この解決方法はたった一つしかありません。
子供の好きなことをやらせることです。
そんなことを言うと、親御さんが反対するでしょう。
「うちの子供は遊ぶことは好きだけど、算数が嫌いで嫌いで、先生そこを何とかして下さい」と。
それは出来ないが、方法を考えることは出来る。遊ぶことが好きなら、遊びを通じて算数を教える方法はないものか、遊びにからめたやり方で、算数の面白さをわからせることが出来ないものか。
先ほども言いましたが、少年雑誌を御覧なさい、高級カメラのメカについて実に詳しく説明が出ております。その説明のおかげで、高級カメラのマーケットの構造がどんどん低年齢化しました。
つい一昨日のことですが、たまたま偶然に、あるパーティで大手のカメラ屋さんの四人の社長と一緒になる機会がありました。その時にこれらの社長から聞きました。
「この中でカメラの説明書をコミックに変えるところ、あるかい」。ミノルタさんが「うちが最初に始めるでしょう。来月からやります」と。日本光学の社長は「そうか、君のところ、やるのか。じや、俺もやろう」と。
それはマーケットが変わったからです。
カメラの説明書をマンガで描くんですよ。マンガの方が子供に読みやすいから。マンガを読むということは、決して知識を尊重しないということではありません。
この頃では、『日本経済入門』をはじめ、経済書もコミック化しました。実は、私も今年、コミックを一冊出します。牧野昇さんも、今度、コミックの書き下ろしを発刊します。
もう活宇だけではダメなのです。売れません。本を売りたければコミックスで、うまくオリジナルを作って行かなければならない。私もそれをやります。ですから、私はコミックスを大変熱心に勉強しました。少年雑誌、よく知っているんです。マンガ雑誌もみんな読んでいますよ。
私が書きますのはあんなものではない。もう少し違ったユニークなものを作たいと考えて、これまでの半年の間、いろんなマンガを読みました。于塚治虫先生をはじめ、いろんなものを読みましたよ。読んでいて、いろいろわかる。非常によくわかる。
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一九八一年一月に、レーガンが政権を取りました。その直後に、レーガンはいろいろな改革をしたのですが、その改革の一つに、アメリカ陸軍の兵隊の教科書をコミックにしました。
海軍もそうです。空軍もコミックス制をとっております。軍隊ですよ、子供じやありませんよ。
軍隊の教科書をコミックスにしたその理由は、アメリカ人の中で字が読めないのが二十八%もいるからです。二十八%は字が読めないのです。自分の名前が書けないのが十五%おります。
こう十字を書いたり、○を書いたり、その下にチャンと「これは何とか二等兵の署名である」と、こう書くんです。ですからコミックスを使わないと、鉄砲の撃ち方一つわからない。相当高度な部分に至るまで、軍隊の教科書がコミックスになりました。
だのに、日本ではコミックスを読む、これは何だかよくないことだ、どうも教育の本筋にそぐわないのではないか?
そんなくだらんことを考えているならば、教育に携わる資格などないと思います。
がんじがらめの、固い規則に縛られないで、自由な発想をして下さい。コミックスを使ってもちっとも悪いとは思いません。
相手に合わせなければいけない。
それを通じてまた、個性が育って行くのです。
コミックスを読むということと個性が高まるということは、極めて相対的な関係でつながっているのです。